秋の終わりの冷たい風が霊武れいぶの山間を吹き抜けていた。紅葉が舞い散る中、人里離れた山荘に一筋の煙が立ち昇っている。その煙は、この荒涼とした土地に人の営みがあることを静かに告げていた。
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「范陽はんようでじっと待っているような時ではない」辛皇后は茶碗を置きながら独り言のように呟いた。
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辛皇后の声には、夫への愛情と同時に、深い失望が込められていた。かつて安禄山の右腕として活躍し、勇猛果敢で知略に長けていた史思明は、今や影のような存在になっていた。部下たちからの信頼も揺らぎ始めている。
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「松紋古定剣さえ手に入れば」辛皇后の目に、再び野心の光が宿った。「あの剣の持つ力で、史思明様を本来のお姿に戻すことができる。そして朝清ちょうせいを、正統な後継者として認めさせるのだ」
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山荘の外では、護衛の兵士たちが警戒を続けている。彼らは皆、辛皇后に心酔する精鋭たちだった。彼女の美貌と知略に魅せられ、命を賭けてでも主君を守ろうとする忠義の士たちである。


